曹髦(そうぼう)の子孫

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※2020年9月の記事再録

曹髦について考えた

 相変わらず、休日はだらだらと過ごしている。やっと秋らしい天気になり、昼酒もすすむというものだ。誕生日が近い。いや、だからといって特別なことなどないが。

 大学を卒業したての頃に『三国志』や『晋書』などといった史書を購入した。今でもたまに流し読みする。今回は曹髦についての話だ。昔々のその昔に、中国は天下三分して魏と呉と蜀が争っていた。これが三国時代で、『三国志』とはその歴史書だ。三国のうち、魏という国の皇帝に曹髦なる若者がいた。三国志をご存知の方には、曹操のひ孫と表現すれば伝わるだろう。色々あって、曹髦は悲劇的な最期を迎える。殺めたのは成済という名の男だ。

 この成済、『三国志』三少帝紀のくだりで、司馬昭という人物の上奏文に「太子舎人」と記されている。太子舎人というのは魏の役職名で、皇太子付きの役人である。しかし、曹髦に皇后はいたものの、皇太子がいた記録はない。存在しない皇太子の部下って変じゃないか? もしかしたら(中国では皇帝の下の位に王が存在するから、)皇族の中にいた王の跡継ぎ、つまり王太子に仕える太子舎人かもしれないけれど、この頃の皇族は皆、都だった洛陽ではなく鄴という都市に集められて生活しているし、そもそも成済は司馬昭の下っ端の家来である可能性が極めて高い。三少帝紀を読めばそれと分かる。また、当時の権力者だった司馬昭は大将軍であるけれど王ではない。いや、公ですらない。上奏文は国に対して提出する文章だから誤って太子舎人と書かれたはずはないし、『三国志』の誤記ならば、後の時代の歴史家が何らかの指摘をするだろう。参考までに、後代の歴史書『資治通鑑』は、「成済は元々司馬昭の私的な部下で、この官職を(名目的に?)授けただけだ」としている。

曹髦の子孫を称する人々

 ここから曹髦の子孫の話になる。盛唐の詩人、杜甫の作に「丹青引贈曹將軍霸」という詩がある。曹覇という著名な画家を題材にしたものだ。曹覇という人物は、曹髦の子孫だと言われているらしい。さらに別口の話で、今から十年ほど前、DNA鑑定によって「曹髦の子孫」と名乗る男性のDNA情報が、曹操の直系子孫の可能性を示しているというニュースが報じられた。その子孫は、曹祖義という方である。中国で誰それの子孫と称する場合は、基本的に男系でたどれる人物の血筋という意味合いだ。女系の場合だと、「母方の先祖は」という具合に注釈が入る。そもそも祖先を誇るならば、いわゆる「敗北者」の名前より、歴史に偉大な功績を残した人間を引き合いに出す方が自然だと感じられる。総合して考えると、曹髦には子供、それも男子がいたのだろう。

身は滅ぶれど、血は続く

 曹髦に男子がいたとなれば、その子は幼年のうちに立太子され、曹髦の死とともに廃された。最終的には民間人として生涯を終えたと考えるのが自然だ。そして、立太子の件も含め、記録上ではいなかったことにされた。

 その子が成人した頃、魏は既に滅び、司馬昭の子が皇帝である晋の世になっていた。かなり無理のあるのは承知の上で、曹髦の皇帝即位から間もなく生まれた子だったと仮定しても、いわゆる魏晋革命から十年ほどが経過している。これが曹髦の没した年生まれとなれば、晋が成立して二十年くらい時が過ぎている。

 晋では、曹奐という魏の元皇帝が晋に捨扶持を与えられて生きていた。魏の皇帝位は、曹髦亡き後に曹奐が皇帝になるという順序で受け継がれている。曹奐の時に魏は滅んだ。曹髦は形式上とはいえ、死後に皇帝を廃されている。だから、仮に曹髦の子が魏の復興を叫んで晋に反乱を起こしても、正統性の面から見て、賛同する人間はほぼ出てこないだろう。魏の最後の皇帝は曹奐であり、廃位された曹髦は「正式」な皇帝ではない。したがって、曹髦の子はよほど大それた行動に出ない限り、晋に警戒されない状況だったと言える。

 『三国志』の著者である陳寿は(母国の蜀が滅びた後に)晋に仕えた身である。曹髦の子が廃されたなら、それは当時の情勢からして司馬昭の意向であり、晋の汚点の一つだ。陳寿が晋を憚り、皇帝弑逆という大悪に比べれば小悪に過ぎぬ太子廃立の一件を書かずに伏せたとしても不思議はない。ただ、後世の歴史家に曹髦の子が廃位されたことをほのめかすため、「太子舎人」の語を削らなかったとしたら、どうだろう。あるいは、魏の遺臣による反乱など起きえないと構える余裕があるからこそ、晋もその言葉を抹消せず、さらに曹髦の子にも目こぼししたのであったなら、どうだろう。

 曹髦の血は無力化されていた。しかし、それが幸いして後世まで脈々と続いたのかもしれない。以上、日頃のおふざけにそぐわない、まじめなお話だ。

 

 

 

 

 

 

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