度胸満点、「諾」の人 游楚伝

巻物2書物
書物
スポンサーリンク

記念すべき第100回は三国志

 遂にやったぜ100記事目。思えば長い道だった。おととし1月にアメブロでブログを書き始め、昨年3月に現サイトを立ち上げ、ようやくここまで来た。記念に書くのは、明るくて爽快なやつがいい。そこで、今回は幼少より好きだった三国志に関連した話題から、正史『三国志』魏書「張既伝」の注にその名が見える、游楚(ゆうそ)という人物の話を書こう。

肝の太い「無名」の男

 出だしから何だけれども、游楚は特に大きな活躍をした男じゃない。とある出来事が起きなければ、ほぼ確実に、その名は後世に伝わらなかっただろう。出身地から程近い隴西郡の太守(現代日本で言えば市レベルの行政区域の長官)で、目立った業績とも無縁な存在だった。ところが一夜にして、歴史の当事者になる。とある出来事とは何か? 諸葛亮の率いる蜀軍の来襲、所謂北伐だ。三国志の好きな方なら、街亭の戦いと表現すれば通じるだろう。諸葛亮の鮮やかな手腕で魏の天水・南安郡が寝返り、游楚の治める隴西郡は西方に孤立してしまった。控え目に表現しても「詰んだ」状態だ。ところが游楚、隴西の役人や民衆を集めて演説をぶった。俺の首を持って蜀に降参すれば、みんなハッピーになるぜ、と。日頃の統治が良かったせいか、はたまた蜀の調略が及んでいなかったせいか、人々は游楚と運命を共にすると言った。で、ここからが感心するところなんだけどね、游楚は人々に対してこう言った。

「国の救援が間に合えば、敵も引き上げるに違いない。もし間に合わなくて蜀軍の攻撃が激しくなったら、俺を捕まえて敵に引き渡せ(つまり、蜀はそれと引き換えに隴西郡の降伏を認めるだろうということ)。それからでも(降伏は)遅くない。」

人間心理を熟知してるとしか言いようがない。一時的には敵と戦うなんて口にしても、人の心は移ろいやすい。下手をすると、籠城戦の最中に内応者が出る可能性もある。ところがだ。いざという時の保険を明示しておけば、ギリギリまでは人々の団結を保てる。危機に際してどうすれば集団が一つになれるか、游楚は計算してたんじゃなかろうか。さもなくば、何事もあけすけに語り、その結果には動じない豪胆な人だったか。

 ともあれ、蜀軍がやって来る。街亭に向かった馬謖とは別の部隊だろう。游楚は部下に命じて城外に陣を設けると、自身は城壁から敵に向かってこう言う。

「諸君らは東からの(援軍の)兵を足止めし、隴西を孤立させた。(放っておいても)一か月しない内に隴西郡は降伏するだろう。もし、それでも攻めてくるなら、いたずらに疲弊するだけだぞ。」

で、部下に命じて太鼓を鳴らし、敵を攻める(姿勢を見せる)。多分、この時は戦闘に至らなかったと思う。蜀軍は兵を引いて去った。先ほどと同じく、これまた見事な振舞い。なぜならば、游楚は事実を述べていて、それは蜀の側にも納得のいく呼びかけだったからだ。籠城戦は、端的に言って食糧と水が最重要事項になる。当たり前だけど、守る側は囲まれているんで外から食糧や水を運び込めない。すると、籠城はいつか限界を迎える。戦時用の備蓄があるならともかく、当時の隴西郡は一般的な貯えしかなかった筈だ。蜀の建国以来、この時まで魏の西方は蜀に攻め込まれたことがなかったんだから。囲む側は積極的に仕掛ける必要がない。いや、ガチガチに包囲する必要すらないかも。当時の魏の兵力配置を考えると、守る側の援軍は東からの一方通行だ。隴西郡の兵力はほぼ間違いなく小勢だろうから、無視しても差し障りなし。中央との連絡を絶ってしまえば、孤立した都市はいずれ陥落する。游楚の言葉どおり降伏あるのみだ。勝ちが確定している場面で戦端を開くなど愚の骨頂だから、蜀は兵を退かせた。よく知られているように、街亭で馬謖が大敗したために蜀軍は本格的に撤退した。結果として、游楚はわざと弱点を晒すことで隴西郡を守り切ったという訳だ。勿論、これだって絶対に成功する策とは言い切れない。蜀軍側が血気に逸っていて、数を恃みに力攻めしてきたとなると防ぐ術はないんでね。やっぱり、游楚って平気で危険を冒せる肝っ玉の持ち主、度胸満点の人だったんでしょ。

皇帝を微笑ます「諾」

 戦後、游楚はお褒めの言葉を賜ることとなり、洛陽に赴いた。初めての参内だったから、作法なんぞいささかも知らない。だから、宮中で皇帝の御前へ進むように命じられると、

「唯(はい)。」

と応じるべきなのに、

「諾(おう)。」

と答えちゃった。素朴さが気に入ったのか、時の皇帝である曹叡も、これにはニッコリしたらしい。その後、游楚は皇帝の宿衛を願い出て中央に勤務し、数年後にはまた地方官となり、最後は七十余歳で亡くなったそうだ。英雄豪傑じゃない、けれども何か清々しさを感じさせる、そんなお話。

 

 

 

 

 

にほんブログ村 本ブログ 歴史書へ
にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました